週刊少年ジャンプ懸賞ページ−1グランプリ2019
今年も一年お世話になりました。
2019年の締めくくりとして「週刊少年ジャンプ懸賞ページ−1グランプリ」を開催いたします。
ジャンプ懸賞ページとは
週刊少年ジャンプといえば読者アンケート。
読者から好きな漫画などの情報を募り、連載作品の人気を計るというものです。
このアンケート次第で漫画の序列や連載期間などが決まるそうで、ある意味漫画の運命を決めるほどの存在でもあります。
さて、この読者アンケートには、同時に応募できる懸賞コーナーも設けられています。贔屓の漫画を応援するついでに、豪華景品が当たるカモ…というワケです。
読者アンケートは週刊少年ジャンプの肝ともいえる重要なシステム。なるだけ多くの読者にアンケートに参加してもらうために、当たると嬉しい景品と、それをアピールする賑やかでユーモラスなページが用意されているんです。
私はそれを懸賞ページと呼んでいます。
※週刊少年ジャンプ2019年25号より
例えばこういうやつ。
一見して程のよいユーモアで溢れているのがわかると思います。
この時は「令和」がテーマになっているので、隅々まで改元にかけたダジャレが散りばめられていますね。
※週刊少年ジャンプ2019年25号より
「こ令和見逃せない!!」というスタンダードなダジャレから、「退屈緩和!!」というパワープレイまで。色とりどりのユーモアで溢れています。
この懸賞ページはジャンプ読者に読みとばされがちですが、実はこれほどの作品を毎週連載しているんです。
ということで、今回は大の懸賞ページファンの私が独断と偏見で「今年1年間のジャンプ懸賞ページの中でも見事な出来だった作品」を選出しました。
果たしてグランプリに輝くのはどの懸賞ページなのか!? あなたの推し懸賞ページはランクインしているのか!?
ぜひ最後まで読んでいってください。
※週刊少年ジャンプ2019年25号より
「和」ならなんでもいいってワケじゃないと思う。
第5位
今年は激戦だったので、5位には同率で2点を選出しました。まずはこちら!
※週刊少年ジャンプ2019年3号より
素晴らしい勢いとモデルさんの顔のインパクト。
普通ならテーマを「祭り」と広めに設定したくなるところを、「太鼓」の一点に集中させた胆力にも目を見張るものがあります。太鼓というより太鼓の達人か。
「ドドドドドえらい」「カカカカカっこいい」という畳み掛けるような大味のダジャレの中に「太鼓判」という過不足ないユーモアの小技が光る良作です。
※週刊少年ジャンプ2019年3号より
惜しむらくは「ドン」や「カッ」だけでダジャレを成立させなければならないという縛りを越えることができなかったところでしょうか。誰もそんな縛りは設けていないのですが。
「タイトル」の強度は申し分ないのですが、その分「各景品へのコメント」では詰めの甘さが見えてしまったように思います。
続いて同率5位の作品はこちら!
※週刊少年ジャンプ2019年19号より
こちらもまた、ページ全体から力強さを感じる逸品。テーマは「エスパー」に設定しているようです。
「なんでそんなテーマにしたん?」という疑問さえ拭えば、テーマ設定を十分に活かしきった完成度の高さにただただ圧倒されます。
※週刊少年ジャンプ2019年19号より
「欲しいもの満PSY!!」という想像の一歩先をいくダジャレもさることながら、「エー級スーパー豪華」という言語野を一足飛びしたようなダジャレには目を見張るものがあります。
強いていうなら、各景品へのコメントが「スプーン曲げ」や「念写」など言葉遊びではなく単語をあてがうだけに留まっているため、やや小さくまとまってしまっている印象を受けたのが減点対象となりました。
タイトルの勢いを終盤まで持続させることができれば、来年はもっと上位を狙えると思います。今後の活躍が楽しみですね。
選外
入賞者の発表の途中ですが、ここで惜しくも選外となってしまった作品を紹介しましょう。
※週刊少年ジャンプ2019年38号より
「自動販売機」をテーマにした意欲作。
奇をてらったテーマを選んだだけ。話題作りにすぎない拙作。…かと思いきや、タイトルの「全部あつめた〜い!!」を見た瞬間「この人、マジなんだ」と思わず居ずまいを正してしまいました。
※週刊少年ジャンプ2019年38号より
テレビに対するコメントで「おおき〜い」Wチャンスのコメントで「待ったか〜いのある…」など、自動販売機という過酷なテーマの元、本気でダジャレを成立させようという気概を感じます。
一般層に受け入れられるかというと難しいかもしれませんが、ミュージシャンズ・ミュージシャンというべきか、業界評は高い作品なのではないでしょうか?
※週刊少年ジャンプ2019年38号より
ただ、トータルで見ると「ただ朗らかに感想を述べているだけ」に見えてしまいました。
今年は惜しくも選外という形になってしまいましたが、来年は間違いなく優勝候補に食い込んでくると思います。こういう懸賞ページを発掘できるのは、賞レースの醍醐味ですよね。
それでは、入賞者の発表に戻りましょう。
第4位
※週刊少年ジャンプ2019年22・23合併号より
爆発力にかけては今年一番だったといっても過言ではない作品。
「カンフー」をテーマに「当タタタタタタタタタタるぅ!!」と畳み掛ける勢いに会場が揺れました。
※週刊少年ジャンプ2019年22・23合併号より
「合計260名にアターッ!る!」という隙をついたダジャレも程よいのですが、その前段の「ホァア!」なんて、本当にただ言っただけになっています。
作者の表現欲がほとばしっているようで、その意気やよし! と思わず拳に力が入りました。
各景品を掌底でバシバシ殴るという演出には「なんで?」という疑問も浮かびますが、荒削りながらも光るものを感じざるを得ません。
※週刊少年ジャンプ2019年22・23合併号より
ただ、明後日の方向を見ながら景品に裏拳をかましているのは「本当になんで?」としか言えません。最後に読者を置いてけぼりにしてしまった感があるので、そこは厳しく評価したいと思います。
とはいえ、こういった若手が上の世代をドンドン脅かしていってほしいとも思いますので、期待も込めて4位とさせていただきました。
それではいよいよベスト3の発表です!
3位
※週刊少年ジャンプ2019年8号より
圧倒的なボケ数の差で、懸賞ページの中でも頭一つ抜けていたのがこの作品。
「名物社長」をテーマにしているようですが、「名品ZOROZORO!! ゼータクざんまい!! いつもより多め!! 太っ腹社長の懐IPPAIプレゼント」というタイトルはもはや一回息継ぎしないと何のことか分からないというボリューム感です。
※週刊少年ジャンプ2019年8号より
人名をもじるのではなく「三昧社長」と名付ける思い切りの良さも驚きですが、あのホテルの女社長を起点にして「IPPAI社長」と命名するあたり、もはやパロディやダジャレを成立させる気すらないのでは? と思ってしまうほどのスピード感があります。
※週刊少年ジャンプ2019年8号より
「ゾロゾロ社長」に臆面もなく「月へ行けるよ」と言わせているのもドキッとしますし、「多めしゃちょー」というただの悪ふざけとしか思えないネーミングにも心惹かれますね。この4人の中に紛れさせればバレないとでも思ったのでしょうか?
ユーモアの精度ももちろん高いのですが、何より同テーマの中からこのクオリティの社長を四人も作り上げたことを評価するべきでしょう。
成立していないダジャレを抜け抜けと見せつけてくるその度胸と、圧倒的な手数の多さを讃え、今年第3位に選ばせていただきました。
続いては準優勝の懸賞ページです。
第2位
※週刊少年ジャンプ2019年40号より
イラストと実写を掛け合わせた変化球スタイル。
それでいて、ダジャレの精度も高く顔面のインパクトや勢いも伴っているため、もはや王道にすら見えてくる傑作です。
恐竜のイラストだけでも成立しているのに、わざわざ顔面を挿入するあたりは小首をかしげたくもなりますが、それよりも、採算を度外視したサービス精神と表現欲に拍手を贈るべきでしょう。
※週刊少年ジャンプ2019年40号より
よく見ると、タイトルの背景に効果線を描くことで勢いを演出するなど、したたかな打算が見て取れます。
それが効果的に機能した結果、スピード感を持って「遊びホーダイナソーたち」というキラーフレーズが目に飛び込んでくる構図になっています。「遊びホーダイナソーたち」が本当にキラーフレーズなのか一考する必要はあるでしょうが、この賞レースを勝ちに来た感は、さすが優勝候補というところでしょうか。
※週刊少年ジャンプ2019年40号より
「街をブラブラキオサウルス!!」や「総獲リケラトプス!!」という重量級のダジャレも圧巻。恐竜の名前が最前面にせり出し、言葉遊びの主と従が逆転するほどのパワーが溢れています。
「アンバランスでは?」「ダジャレじゃなくて一発ギャグみたい」という指摘もあるでしょうが、この他を食ってしまうほどの存在感は、かえって「恐竜」というテーマ性を表現することにも繋がっていると言えます。
※週刊少年ジャンプ2019年40号より
「便利さアップテラノドン!!」 に関しては、もうダジャレではなくしりとりです。
※週刊少年ジャンプ2019年40号より
かと思いきや、「視ソ聴!!」と思わず膝を叩いてしまうような技巧派の一面も。
一見すると勢い重視の作品にも見えますが、実は隅から隅まで計算され尽くしており、まさに賞レースで勝つことに照準を当てた1ページとなっています。
始祖鳥のイラストとかは普通に描いてあるんだから、ますます顔面の写真は要らなくないか? という疑問は置いといて、このレベルの懸賞ページでも2位ということが、2019年がいかに激戦だったかを物語っていますね。
続いて、優勝の発表…の前に審査員特別賞の発表です。
審査員特別賞
※週刊少年ジャンプ2019年31号より
芸人のかまいたちさんがゲスト出演している懸賞ページです。
ゲスト出演とのことで「キャスティングで満足してしまう箸休め役」程度になってしまうのでは? という懸念もありましたが、実際その仕上がりはレギュラー回を凌ぐほど高いレベルで完成されており、さすがは優勝候補のかまいたちさんといったところです。
※週刊少年ジャンプ2019年31号より
賞レースに勝つために飛び道具やシステムの発明ばかりが求められ、まるで曲芸のかましあいのようになりつつある中で、かまいたちのどっしりと地に足をつけた王道のしゃべくりは圧巻。
その内容も、決して作品に従属する展開だらけのフィクションでもなければ、山内さん頼りのキャラクターショーでもありません。
山内さんと濱家さんという面白い2人の日常会話を4分に切り取ったかのような作品で、高純度のキャラクター性とリアリティがある豊かな掛け合いは「令和のやすきよ」と言っても過言ではないと思いました。
※週刊少年ジャンプ2019年31号より
もちろん、賞レースに勝つため斬新な視点を発明してきた他の決勝進出者も凄まじく、そんな中、かまいたちさんのような王道のしゃべくりは報われないのではと思っていました。4分を戦い抜くためにデザインされた作品たちの中では、あくまで王道を走る彼らの漫才は比較して地味に映るのではないかと。
実際はそんな素人の杞憂などなんのその、勢いと爆発力と技術をバカほど高い水準で共存させておきながら、競技性と作品性と新規性すらも兼ね備えているという怪物のような作品でした。
あんなレベルでM-1ナイズドされた王道のしゃべくりが今までにあったでしょうか。
※週刊少年ジャンプ2019年31号より
笑いをとる手法も技術も、取れる笑いの量も質も、その全てが別格。間違いなくこの半世紀の中で最も完成された作品だったと思います。
惜しくも優勝には届きませんでしたが、かまいたちさんの15年間はもちろん、M-1という存在が紡いだ歴史をたった4分間で見せつけられたようで、贅沢な鑑賞体験ができ一視聴者としてとても幸せでした。
来年からはもうこの舞台でかまいたちさんを見ることが出来ないという事実には受け入れ難い寂しさがあるのですが、これからは賞レースという過酷な舞台から卒業したお二人のご活躍を楽しみにしたいと思います。
※週刊少年ジャンプ2019年31号より
マネージャーさんまでいる。
さて、いよいよ2019年の週刊少年ジャンプ懸賞ページ−1グランプリ
優勝者の発表です!
1位
※週刊少年ジャンプ2019年9号より
面白すぎる。
映画「ボヘミアンラプソディー」が話題を席巻していた頃の作品ですが、それを元ネタにしたとして、凡百の人間がここまでの傑作を作り上げることができるでしょうか?
※週刊少年ジャンプ2019年9号より
その魅力ハズレナッSing!! 伝説のオモロックスター イッパイクレディ・マーキュリーが贈るコレイーヤンラプソディグッズプレゼント!!
「オモロックスター」で読者の心を掴み、「イッパイクレディ・マーキュリー」でセンスを爆発させ、「コレイーヤンラプソディ」でその印象を決定づける。圧倒的な破壊力を持つダジャレを畳み掛けつつ、それらを華やかなビジュアルで魅せきった演出力にも脱帽です。
「クレディ・マーキュリーなのに贈るの?」という点や、ラプソディを説明づける「狂詩曲」の意味のなさなど、細かい部分に噛めば噛むほど味が出るような気配りを効かせています。
※週刊少年ジャンプ2019年9号より
Queenやフレディ・マーキュリーの楽曲になぞらえたコメントも小気味好いですね。
そういったところで小技を効かせながら、「オモロック」という大振りの言葉遊びをぶつけてくるセンスもピカイチ。
かの桂文楽は「寄席というものは化け物がでないとダメだ」と述べたそうです。
そこへいくと、このイッパイクレディマーキュリーは、懸賞ページにおける化け物、モンスターの登場だったと言って差し支えないのではないでしょうか。まさに正真正銘のオモロックスターです。
※週刊少年ジャンプ2019年9号より
「レディオ!! レディオ!!」なんて、ヤケになっているとしか思えません。
「レディオ・ガガ」聴いたことないんじゃないの? と言いたくなるほどのスタンドプレーですが、モデルさんの表情筋と表現力が野放図なダジャレと読者をつなぐ役割を果たしており、奇跡のバランスで成立させています。
※週刊少年ジャンプ2019年9号より
「これでウィーウィル閉じ込めユー!!」などの型破りな言語センスも圧巻。読者に寄り添うのではなく、読者を牽引するようなカリスマ性を感じざるを得ませんし、このフレディ・マーキュリーというテーマを活かしきる方向に機能しています。
この圧倒的なパフォーマンスに魅了されたのは私だけではないでしょう。
このあふれんばかりのユーモアエネルギーは2019年を締めくくるにふさわしいものです。
週刊少年ジャンプ懸賞ページ−1グランプリ2019、堂々の1位とさせていただきます。
最後に
昨今の少年ジャンプは、かつての黄金期さながらの豪華な連載陣が勢揃いしています。
不朽の名作ONE PIECEを始め、「僕のヒーローアカデミア」が世界的な人気を博し、「鬼滅の刃」がコミックス売り上げであの「ONE PIECE」を抜くなど、漫画の展開だけでなく少年誌の展望すらも楽しみにできるほどの盛り上がりをみせているんです。
その一方で、懸賞ページのクオリティも年々向上しています。
今まで読み飛ばしていた方も、ぜひ来年から目を通してみてください。そして、読者アンケートにも協力してあげてください。
今年の懸賞ページー1グランプリは、これまでで最もレベルの高い大会となりました。しかし、2020年の懸賞ページ−1グランプリはもう始まっています。
2019年のエントリー作品に大きな拍手を贈るとともに、来年に生まれるであろう新たなスターを今から心待ちにしたいと思います。
2019年もお世話になりました。
来年もまた変わらぬご愛顧を賜りますよう、何卒よろしくお願いいたします。